次世代に海遊びを伝えたい ~「海にいこーよ」の挑戦

世界的な酷暑といわれた2018年夏。8月も終盤を迎えた千葉県館山市の沖ノ島に、弾けるような笑顔の子どもたちがいた。「うわぁ、見て!ここにエビがいるよ」「きれいな貝殻を見つけた!」南房総の穏やかな岩浜の海。帽子や上着で熱中症対策をバッチリ施し、潮だまりをバシャバシャ歩いてみると、暑さなんて忘れてしまいそうな心地よさ。子どもたちは網を片手に、瞳を輝かせながら、小さなハンターとなって探検を楽しんでいる。海で見るもの、触れるもの、体験したことすべてが、彼らにとっては宝物なのだ。

子どもたちが参加しているのは、館山市沖ノ島で8月27~28日に開催された「夏休みの無人島探検隊!in千葉」という親子の体験合宿イベントだ。夏休み、無人島、探検隊……子どもはもちろん、大人だってワクワクしてしまう、魅力的なワードがずらり。いったいどんな体験が待っているのだろう。
イベントの主催は、子どもとお出かけ情報サイト「いこーよ」を運営するアクトインディ株式会社。同社は2008年に「子どもたちの価値ある未来を創る」を理念として「いこーよ」を立ち上げた。現在は、国内最大級のお出かけ情報サイトとして成長し、今年でサイト誕生から10周年を迎える。これまでも、農業やスポーツ体験など、ユニークなプログラムを展開してきた「いこーよ」には、「いずれは海の体験プログラムを開催したい」という強い思いがあった。そんなとき、日本財団の「海を未来へ引き継ぐ」という理念や、「子どもや若者など多様な人が海への好奇心を持ち、行動を起こすムーブメントをつくる」という考えに大いに共感し、同財団が推進する「海と日本PROJECT」への参画を決めたという。
このような経緯で生まれた、1つのメディアと2つの体験プログラムについて、一連のプロジェクトを担当した中村崇さん(アクトインディ)への取材を交え、紹介していこう。

お出かけ情報サイト「いこーよ」が、日本財団「海と日本PROJECT」に参画し、第一弾として手がけたのは、ポータルサイト「海にいこーよ」の制作である。
担当者の中村さんに、同サイトのコンセプトを伺うと、「目的は、多くの子どもたちに、海そのものだけでなく、海で働く人や海と関わる人、また、海の生き物との出会いの場をどんどん提供することです。これまであまり海で遊んだ経験のない親子にも、海への関心を高めてもらえるような情報を発信していきたいと思っています」と、外見のクールなイメージに反して、熱い言葉が返ってきた。
海にまつわるイベントや情報をなんとなく集めて掲載しているのでなく、「海と日本PROJECT」の主旨に適したものを事案ごとに編集者が吟味し、随時拡充しながら発信しているという。
2018年5月22日にオープンした「海にいこーよ」は、なんと11月現在で延べUB数6万人に達した。今まではおでかけの選択肢に「海」を考えていなかった親子に、「海にでかける」「海のイベントに行く」という新たな価値観が浸透したといえるだろう。掲載イベントは「海と日本PROJECT」の関連イベントをはじめ計256件(9月末時点)におよび、夏だけでなく一年を通して興味深いコンテンツを届けてくれる。

ポータルサイトの設置に続き、「いこーよ」が第二弾として手がけたのが、冒頭で紹介した「夏休みの無人島探検隊!in千葉」である。
参加者は、東京、千葉、埼玉から集まった、5組10人の親子。子どもの年齢は、5歳から9歳までとさまざまだ。合宿初日は沖ノ島をみんなで探検して貝殻拾いを楽しみ、2日目は貝殻で標本を作ったあと、島で生き物探しに夢中になった。岩浜の海でエビやカニ、ヤドカリ、小魚などを見つけるたびに、あちこちでわあっと歓声が上がる。子どもだけでなく、大人も童心に返って楽しんでいる。
沖ノ島で子どもたちを案内してくれた、NPO法人たてやま・海辺の鑑定団の竹内聖一さんは、日に焼けたやさしい笑顔でこう語る。
「東京湾に面する館山・沖ノ島には、貴重な生態系が生息しています。今回のような海とふれあう体験を通して、自分たちの生活が海とつながっていることや、一人一人が自覚を持ち、海を大切にしていく必要があることを伝えていきたいですね」。

合宿終了後、参加した子どもたちの声を聞いてみた。「貝殻ひろいとか生き物を探したのがおもしろかった」「魚の動きがいつもとちがっていた」「カニが死んだふりをしていたので、敵から逃げるためかなと思った」と、楽しい思い出だけでなく、鋭い観察眼から生まれたユニークな感想も。この2日間の合宿で、子どもたちは海の遊びをたっぷり楽しみながら、大人が想像する以上に多くのことを感じ、学び、成長していた。それは、保護者たちの「子どもの吸収力は大人と比べ物にならないと思った」「うちの子が2日間でワイルドになった」「一つ成長した感じがする」という感想にも表れている。

そして、「いこーよ」がプロジェクト参画の第三弾として手がけたのは、9月8~9日に開催した「3歳から親子で海の大冒険!海のキッズ探検隊@横須賀」」という親子の体験合宿プログラムである。舞台を千葉県・館山の海から神奈川県・横須賀の海に移し、東京から3組9人の親子が参加した。今回の体験の主役は、3歳から7歳まで、4人の子どもたちである。
合宿初日、横須賀市にある観音崎自然博物館を訪れた。当館の学芸員やコーディネーター計10人の専門家が案内役を務め、まずは観音崎の海の特徴や、生息する生態系についてのレクチャーから。「月の引力による潮の満ち干きにで、どの場所にどんな生き物がいるのかわかる」という説明に、みんなは驚いたり、うなずいたり、興味しんしん。生き物探検への期待がどんどん高まっていく。磯を観察するときに気をつける点や、さわると危険な生物など、探検時の注意ポイントを頭に入れた後、さっそく海へ向かうことに。

コーディネーターに導かれ、おそるおそる潮の引いた磯へ足を踏み入れる子どもたち。岩の間や砂をよく観察してみると、「あ、ヤドカリだ」「カニもいるよ」と、さっそく生き物を発見。嬉しそうな歓声が上がる。「よく見つけたね。そう、敵に見つからないように、ヤドカリやカニは岩によく似た色をしているんですよ」。コーディネーターのヒントを聞いて、どの子も磯探検隊の隊員となり、夢中で生き物探しを楽しんでいる。

磯観察のあとは、海藻を使ったうちわ作りに挑戦。いろいろな色や形の海藻を、木や花、生き物などに見立ててデザインし、世界に一つしかない「海藻うちわ」ができあがった。

合宿2日目は、早起きしてバスに乗り、5時半に大楠漁協佐島漁港に到着。本日のテーマは、「海から食卓まで、魚はどうやって届くのか?」。まずは、漁師さんの案内で、たくさんの魚を積んだ漁船を出迎え、水揚げされたばかりの新鮮な魚を観察。シイラ、イワシ、カツオなど、とれたてピチピチの魚を前に、触ってみたり、持ち上げたり、積極的に魚に触れる子どもたち。こんなにたくさんの新鮮な魚を目撃したら、大人だって「おおーっ」と興奮せずにはいられない。
これらの魚をどうするかって? もちろんセリにかけるのだ。朝9時半、待ちに待ったセリの開始時刻。カランカランカラン、セリの開始を告げる鐘を鳴らす役を任されて、みんなはちょっと誇らしげ。気分はもう、一人前の漁師である。
セリのあとは、イセエビやタコ、ウツボなどが入ったいけすや、魚を新鮮なまま運ぶための氷詰め作業をじっくり見学。それから漁港をあとにして、タコの活け〆体験にトライした。活け〆とは、魚の鮮度を長時間保つために、生きたまま〆る(=殺す)こと。目の前でニュルニュルと動くタコを前に、不安げな表情を浮かべる子も。
「こうすると、鮮度を保つだけでなく、旨味成分も増えておいしくなるんだよ」漁師さんに教えてもらいながら、包丁を急所に入れて〆ると、タコは一瞬で全身が真っ白に! これには、子どもはもちろん、大人だって驚いた。どんなに大人になっても、世の中には知らない世界が山ほどあるのだ。

プログラム終了後の昼食時間、どのテーブルでも、タコをはじめ新鮮な魚介メニューに「おいしい」「やっぱり新鮮だね」「海と猟師さんに感謝しようね」と舌鼓を打っていた。
「2日間の合宿はどうだった?」とたずねると、「新鮮な魚がみんなに届くのは、氷があるからなんだね」「タコの活け〆がこわかった~」「タコを殺したら、すぐに白くなったからびっくりした」と、漁師の獲った魚がどうやって食卓に上るのか、自分の生活に関連づけて考えたり、生きているタコを人間がおいしく食べるために〆るという事実に衝撃を受けたり、子どもたちの素直な感性がそのまま言葉に表れていた。一方、保護者たちは「タコの活け〆体験や、海で働く人たちの仕事を知ることができてよかった」「生き物に直に触れることができて、よい学びになった」「いろいろな魚と間近でふれあえたのが印象的だった」と、親子でさまざまな気づきを得たことを語ってくれた。

昨今は「若者の海離れ」なんて話題をよく耳にするようになった。筆者のまわりにも、「海にはあまり行かない」「肌がベタベタしたり、日焼けしたりするから苦手」という人が増えている。けれども、今回の二つの体験プログラムを取材して、海を敬遠する人が増えた原因は、海を知る機会がなかったからだ、ということがよくわかる。
「親子でいっしょに海を楽しんだり、生き物に触れたり、探検したりすることは、海を身近に感じ、関心を高めるきっかけになると思います。これからも魅力的な体験プログラムをどんどん企画していきますよ」と、自身も今回のイベントを通して海が大好きになったという中村さん。

プログラム終了後の保護者アンケートでは、海に対する気持ちの変化として、「海への興味・関心が(より)高まった」「また海に行きたいと思った」と答えた人は83%、「海への親しみを(さらに)感じるようになった」「海が(より)好きになった」と答えた人は100%という結果が出ていた。
海を知るきっかけがあれば、どんな世代にとっても、海は楽しくておもしろい、身近な存在になり得るはずだ。参加した子どもの一人が帰り際に発した、「おいしいお魚を食べるには、キレイな海が大切だとわかった」というシンプルな言葉に、そう、海と人はつながっているんだと、思わずハッとさせられた。
海は、不思議や発見が詰まった、魅力いっぱいのお出かけスポットだ。遊び方や楽しみ方は人それぞれ。ゲームのような正解はない。
さあ、今度の休日は、海に行ってみませんか?

取材・執筆:小川こころ/文筆家・作家
福岡県生まれ。大学卒業後、楽器メーカー、舞台役者を経て新聞記者に。2011年に独立。企画・取材・執筆を手がける個人事務所を設立。同時に「ゼロから始める文章講座」や「コラムニスト入門講座」「心を動かすレビュー講座」など執筆や表現に関するワークショップ「東京青猫ワークス」を立ち上げる。ブログ「ことばのチカラはこころのチカラ!」を運営。

撮影:アクトインディ株式会社

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