千葉市 未来につづく街づくり Part 1ドローン活用で拓く先端技術都市

子ども達がプログラミングして飛ばすドローン(撮影:樋宮純一)

「見て!自分で飛ばせた!」。子どもが見つめる先にはドローンが上下に機体を揺らしながらホバリングしていた。

2018年3月のある日曜日、東京・自由が丘にある子ども向け学習教室で、親子によるドローン・プログラミング教室が開催された。自分でプログラミングしてドローンを飛ばすという体験に、親も子もわくわくしている様子が伝わってきた。主催者はEコマースなどを展開する楽天グループ。楽天は、ドローンの商用化に最も熱心な日本企業。同社は千葉市ドローン宅配分科会 技術検討会にも名を連ねている。

子ども達や産業界の夢を乗せて飛ぶドローン。千葉市は、そのドローンに早くから注目してきた。
「幕張新都心を中核とした近未来技術実証・多文化都市の構築」をテーマにかかげ、2016年1月に国家戦略特区に指定された。もともと千葉市には「幕張新都心」という先駆的なチャレンジができる街がある。千葉市は特区指定にあたって「ドローン宅配」「自動運転モビリティ」というテーマを選んでいる。
ドローンという新しいテクノロジーにより、今まで近いようで遠かった空が、身近な存在に変わろうとしている。千葉市で行われている施策の特長、他市町村にはみられない価値創造の取り組みについて熊谷俊人市長に取材するとともに、実証実験に参加した楽天の試みを取材した。

全国に先駆け、千葉市でドローンの実証実験

インタビューに答える熊谷市長(撮影:樋宮純一)

――千葉市では、近未来技術に向けた取組みを行っている。そのなかで無人飛行機の「ドローン」を積極的に活用しようとされている。

市長:「ドローンは非常に面白いと思います。なぜなら「地上」にいた我々は、船で「海」に進出し、飛行機で「空」に進出し、いまや人工衛星で「宇宙」に進出してきました、そして最後に残された場所が、地上と、飛行機やヘリコプターが飛行している間の空間。「地上」と「空」との間の空間が、まったく活用されていないわけです。
そこにビジネスがないわけがありません。海も空も宇宙も非常に大きなビジネスになっています。(「地上」と「空」との間の空間活用の)有力な担い手がドローン。さまざまなビジネスモデルが、ここから生まれると思います。そのとき、私たちが日本において、この時期からドローンに力を入れていくというのは、将来にとって意味のあることだと思います」

◆◆◆

空の産業革命と言われる「ドローン」は、撮影だけではなく、宅配、測量、インフラ点検、農業、林業、災害時の利用など、さまざまな分野での活用が期待されている。そのドローンに早くから注目していた千葉市では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、ドローンを活用した宅配サービスのある近未来都市を実現させたいと考えている。
ドローン宅配構想を実現させるためには、何よりもまず「法規制」の障壁をクリアする必要がある。そこで千葉市では平成28年1月、幕張新都心を中核とした『近未来技術実証・多文化都市』の構築をテーマにして申請して指定された国家戦略特区において、テーマの一つにドローン宅配を掲げて実証実験を積んでいる。

幕張新都心は東京都心へ30分圏内という好立地にある都市であり、平成30年4月現在、日々約22.6万人が活動、年間来街者は約4,700万人にのぼっている。来街者を支える幕張メッセは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの競技会場に決定し、さらなる利活用が期待されている伸びしろの大きい地域である。
幕張新都心は都市部でありながら、ドローンの飛行にあたって立地環境に優位性があり、さらにはビジネスとしても成立し得る環境が整っている。幕張新都心で計画しているドローン宅配は、東京湾臨海部の物流倉庫から海上や河川の上空を飛行して住宅地区への配送を目指している。

ドローン宅配での、幕張新都心の立地環境のメリット
①東京湾臨海部に物流倉庫が数多く立地
②配送ルートの大半が海上と河川の上空
③首都圏でも大規模な都心型住宅が立地し、今後開発される若葉住宅地区と合わせ、約3万6千人規模の居住人口。特に、今後建設される若葉住宅地区は、設計段階からドローン宅配を視野に入れた検討も可能
④電線地中化により飛行の障害が少ない
「CHIBA特区NEWS」第1号より抜粋)

□千葉市概要
千葉市の県庁所在地。政令指定都市。首都東京まで約40kmの地点。また、県内幹線道路およびJR・京成電鉄・千葉都市モノレールなどの鉄道の起点にもなっている。中央区・花見川区・稲毛区・若葉区・緑区・美浜区の6区からなり、面積は271.77平方キロメートル。千葉市の地形は、下総台地の平坦地におおわれ、その一部は、東京湾に接しており、温暖な気候と肥沃な土地、豊かな緑と水辺など自然環境に大変恵まれている。人口975,669人(2018年4月1日現在)。仙台市に次ぐ全国12番目の人口。昼夜間人口比率は97.2%と高く東京への通勤圏ではあるが独自の経済圏を有している(『千葉市統計書(平成27年度版)』

民間企業とともに挑む空の産業革命

千葉市がドローン宅配を進めるボトルネックの一つが、航空法の壁。2015年12月に航空法が変更されてDID地区(人口集中地区)内での飛行や「目視外」、「第三者上空飛行」での使用が許可制となり、厳しく制限されている。ドローン宅配を商用可する上ではそれらの条件が障壁となるため、どのように解決していくかが課題となっていた。
ドローン宅配の取り組みに加え、市内企業の技術開発および市外企業の千葉市への誘致を促進するため、2017年12月、千葉市では市有施設等を活用してドローン飛行場を提供する「ドローンフィールド」を開設した。その利用対象は千葉市内に事業所を持つ法人、千葉市に企業立地を検討できる法人で、一般人の利用はできないものの、ここで実証実験が進むことでドローンを使った具体的サービスが生まれることが期待されている。

Rakuten Super Englishジュニア(撮影:樋宮純一)

楽天は、日本でドローン配送の展開および普及に最も力を入れている企業。冒頭で紹介した親子向けドローン・プログラミング教室は、同社が運営する英語学習サービス「Rakuten Super English」と、楽天AirMapとの共催で企画された。楽天AirMapには、ドローンの空域管理とシステム面のサポートという2点がメインにあり、まだ危険なイメージが残るドローンに対して、一般の方からの理解を得るためのコミュニケーション活動も行っている。今回のイベントは、その一環でもあった。

ドローンの基本的な説明を受ける親子(撮影:樋宮純一)

イベントでは、ドローンの基本的な説明を受け、タブレットに入っているアプリを使って、子ども達自身でドローンの動きをプログラミングし、実際にドローンを飛ばすというもの。

楽天では、総合的にドローンの活用に取り組んでいる。たとえば、ドローン飛行をワンストップで管理できるプラットフォームの提供。楽天AirMapでは、2017年12月7日に自治体などの空域管理者に向けたクラウドシステム「空域管理ダッシュボード」(https://www.rakuten-airmap.co.jp/stakeholders/)とドローン操縦者に向けた専用アプリ「AirMap」(https://www.rakuten-airmap.co.jp/operators/)をリリース。同年12月8日より千葉市が運営する法人向けドローンフィールドにおいて「空域管理ダッシュボード」が導入されて、飛行申請が可能となった。ドローンフィールドでドローンを飛ばすには、まずアプリ「AirMap」をダウンロードしてもらい、千葉市に申請をしてもらってから飛ばすという流れになる。
この千葉市との取り組みは、地方自治体が無人航空機管制(UTM)システムを用いてテストフィールド内のドローン飛行を管理する日本初の事例となった。
ドローンに対する社会の関心は高まっている。しかし様々な規制があり、「どこで飛ばしたらいいのか」というのが現状だ。とはいえ、今後規制は緩和されることになると予想できる。そこで、楽天は、ドローンの管制について海外で実績がある米AirMap社との合弁会社「楽天AirMap株式会社」を設立した。
ルールが定まっていないいまこそチャンスであり、ルール作りにも参画して日本の空の新しい活用方法を探っていきたい考えだ。

静岡県藤枝市での実証実験の様子(提供:楽天株式会社)

楽天のドローン事業

右)谷 真斗さん(楽天株式会社 新サービス開発カンパニー ドローン事業部 事業開発チーム アシスタントマネージャー)
左)陰山 貴之さん(楽天AirMap株式会社 事業開発部長)  (撮影:王麗華)

千葉市の国家戦略特区の取り組みに賛同し、ドローン物流の実証実験を進めている楽天。楽天ドローン事業部の谷 真斗さんと、ドローンの管制システムを提供する楽天AirMapの陰山 貴之さんに話を伺った。

――さまざまな事業を展開されている楽天にとって、ドローン事業の位置づけは。

谷真斗さん(楽天ドローン事業部):「これまでの物流には、いくつかの本質的な課題がありました。年々、Eコマース業界が拡大していくなかで小口配送の数も増え、さらには再配達率の問題も指摘されていました。2015年、物流業界がかかえる課題とドローンの可能性が広がってくるなか、これまで活用されていなった150メートル以下の空域を活用すべきという認識が強くなっていました。そこでドローンを使えば渋滞にも影響をうけず、頼んだら無人ですぐに品物を運んでくれる。そんな世界を目指し、『ドローン宅配』の実現に向けてやっていこうという話になりました」

ドローン事業の構想において、楽天は3つの柱を据えている。1つ目は「新たな利便性の提供」。2016年5月、同社では千葉県のゴルフ場で、日本で初めて一般消費者に向けたドローン配送サービスを1ヶ月間実施した。
2つ目は「物流困難者への支援」を目指している。2018年3月に終了したものの、福島県南相馬市においてローソンの移動販売車と連携し、2017年10月から6ヶ月間ドローン配送サービスを提供した。
それ以外にも、実証実験として2016年10月に愛媛県今治市の離島内で離島間配送を目指した配送実験や、2018年3月には静岡県藤枝市で山間地域における個宅へのドローン配送を行った。
3つ目の柱は「緊急時の災害支援」。地震や耐風による災害などが発生した時、物流が遮断された地域に、ドローンを活用すれば必要な物資を配送することができる。平常時で活用していれば、災害時でも物流ドローンの利活用は期待できる。楽天は自治体と包括連携協定を結んでおり、そのなかでも岐阜県飛騨市と広島県神石高原町とは、被災時のドローン活用および物資輸送について検討している。

――これまでの実証実験で、わかったことは何か。

:「まずは現在の法規制の課題です。現状、第三者の上空は原則ドローンを飛ばせません。物流では、基本的に人がいる場所へものを届けるので、第三者上空を飛行することは避けられません。また電波の課題もあります。今後さらにドローン物流を展開する上で「長距離飛行」は間違いなく求められます。ドローンの状態を把握するため、常にドローンとの通信が必要なのですが、長距離飛行の際には、その通信を担保する電波が必要になってきます。
2016年11月には千葉市においてNTTドコモ様にご協力いただき、LTEを活用したドローン配送の実証実験をしました。しかし現在の規制上、楽天単体ではLTEを使ってドローンを飛行させることはできませんので、長距離飛行を実施するための通信技術は今後解決すべき課題だと思います。
また長距離飛行となると機体の安全性やバッテリーの課題もでてきます。今の楽天のドローンは往復10キロ飛行できますが、今後、ドローン物流を展開していく上で、長距離を飛べることと、人のいる上空を飛べるような安全性の高い機体が必要だと思っています」

※LTE
LTE(Long Term Evolution)は第3世代(3G)の拡張版(3.9G)でありデータ通信を高速化した規格。LTEは3.9Gの携帯電話の通信規格であり理論上の最大受信速度は「326Mbps」送信速度は「86Mbps」である。

 

楽天としても2018年は山間部、離島など、いわゆる目視外の飛行でドローン物流の展開をしていけるよう実績を積んでいくことで、2019年度以降、都市部での配送の実現につながるという判断だ。そこでの実証実験の実績があれば、国に対する提言にも信憑性が増す。
楽天では、離島や山間部でのドローン活用も視野に入れ、実証実験を進めている。
そのような場所だと、目視外でドローンを飛行させることになるが、目視外飛行を実施する際は「補助者」というドローンを監視する人が求められている。
その補助者を排除した目視外飛行に関して国ではいろいろ議論が重ねられていて、2018年3月29日に国土交通省が公表した規制緩和では、目視外飛行を「補助者無し」で行うための要件が盛り込まれている。

無人航空機の目視外飛行に関する要件
(「国土交通省」平成30年3月29日)

――山間部や離島などでは、医療品などの軽いものの需要が多そうですね。ドローン宅配では、相手が不在の対応などに課題があるのでは。

:「そこはソフトウェアによるソリューションで対応していきます。ドローン配送をおこなうとき、注文者からの『今』ほしい、もしくは『この時間帯に』ほしいというリクエストを受けてドローンを飛ばすようになります。当社ではドローン配送に特化したショッピングアプリもつくりこんでいますので、頼んだ荷物が到着すればアプリ側に通知が届いて『いつ届いたか』もわかるようなシステムになっています」

ドローンの管制ができるシステムを将来的に提供したいと話す陰山氏(撮影:王麗華)

――山間部では楽天AirMapが間に入って、その都度、申請をすることになるのか。

陰山貴之さん(楽天AirMap):「残念ながら現状、楽天AirMapを使って飛行の許可申請を行うことはできません。それは、現在の申請プロセスが航空局の開発したシステム(DIPS)を通してでしか出来ないためです。当社としては許可申請をより簡単に、利便性をあげていくテクノロジーを提供していきたいと考えており、航空局のシステムに弊社のような民間企業のシステムがうまく連接できるような仕組みを構築いただけるよう働きかけていきたいと考えております。最終的にはドローンが飛んでいることが日常となるような世界のなかで、単なる許可申請のアプリではなく、どこにドローンが飛んでいるのか、すべて管制できるシステムを提供していきたいと思っています。」

規制緩和では、ニーズ(必要性)が問題となる。ドローンを飛ばしたい人が増えれば規制を変える必然性が高まる。大海原をぽつんと飛ぶドローンではなく、街の上空をたくさんのドローンが飛び交い、空の領域での危険性が高くなることが想定されるときに管制が必要になることが明確になり、楽天AirMapで開発したアプリが活用される世界が来る。2020年の東京五輪の頃には、ドローンの実用化が拡大していると同社では考えている。

大変な部分はあるものの、ドローンへの期待は大きいと話す谷氏(撮影:王麗華)

――楽天はグローバルな企業ですが、世界のドローン事業をみた場合、日本の現状はどうなのか。

:「官民一体となって取り組めている点では優位だと思います。海外でいうと、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカでもドローン物流の試験運用や定期的な運用が行われていて、電波の問題でもLTEを使って飛ばしているところもあります」

――千葉市との取り組みについての今後は

:「千葉市は都市部なので、再配達の問題、小口荷物の増加、トラックドライバーの不足、車の渋滞もありますから、どれをとってもドローン物流の商用活用へつながると思います。まずは2019年に幕張新都心でドローン宅配の実現を行うことを目指し、当社としても、引き続き千葉市での取り組みに貢献して行きたいと思います」

ドローン利活用を促進していきたい千葉市(撮影:樋宮純一)

熊谷千葉市長は、ドローンビジネスは将来について、「ドローンは日本にとってのフロンティアであり、大きなチャンス。この魅力的な市場を形成するためのルールづくりが重要で、そこに我々も積極的に関わっていきたいと思います」と語る。

ドローン事業とその前提となる実証実験は、場所ありき。どこまで地域の協力が得られるか、そこが重要になる。その意味でも千葉市の積極的な姿勢は、次代を拓くカギになる。

Part 2 熊谷俊人 千葉市長インタビューに続く

取材・執筆:廣川州伸
撮影:樋宮純一(トップ画像および※印を除く)
構成:王麗華/次世代価値コンソーシアム

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