400年以上の歴史をもつ「宇津救命丸」 地域の人々の健康を願った初代の心を受け継ぎ、家族の心身の健康に貢献する

創業は江戸時代より前となる、400年以上の歴史をもつ医薬品メーカー宇津救命丸株式会社。夜泣き・下痢・かんむしのお薬「宇津救命丸」をはじめ、甘くて飲みやすい「かぜ薬」、「ももの葉ローション」など子ども・家族の健康をサポートする製品を広く取り揃えている。東京本社にて、18代目社長の御子息である宇津善行専務取締役に、会社の歩み、小児薬市場での自社の役割などについてお話を伺った。

(撮影:上林正典)

プロフィール:宇津 善行
うつ よしゆき/宇津救命丸株式会社 専務取締役 営業部部長
大学卒業後、SE、医薬系企業、会計事務所を経て、2009年に宇津救命丸に入社。会社を継ぐようには言われたことはなかったが、脈々と続く家業をいずれは継ぐものだと感じていたという。子ども達のための製品を作り続けていることを誇りに、これからも社会に貢献し続けたいと薬育、地域イベントなどに力を注いでいる。

今も昔も、宇津救命丸が作られるのは栃木・高根沢

――御社の長い歴史について教えてください
当社は江戸時代前となる1597年に創業し、私の父である社長が18代目となります。初代創業者は宇都宮家の殿医でしたが、改易によって農民となりました。その際、これまでの薬学の知識を地域の人達に提供したいと宇津救命丸を作って無料で配ったのが始まりです。やがて一橋家に献上するようになり、一橋家御用達ということで注目され、全国で販売するようになりました。初代がどこで医学の知識を得たかは昔の書物が焼失してしまい不明ですが、宇都宮家は朝鮮出兵しているのでそこで救命丸の元となる知識や生薬などに出会ったのではないかと、私は推測しています。入社後、当社の歩みや日本史について学ぶうち、歴史が好きになりました。歴史を通して過去から学ぶことがたくさんありますし、過去からしか学べないこともあると感じています。

年代を感じさせる登録商標の記載が入った看板(撮影:上林正典)

――宇津救命丸はどんなところで作られているのでしょうか
宇津救命丸のメイン工場は、栃木県塩谷郡高根沢町にあります。同じ敷地内に、私の実家や史料館などもあります。高根沢に来ていただければ、当社の歴史にもふれたり、工場見学もできたりします。工場見学は現在、団体様向けや地元の小学校などに限り開放していますが、今後は夏休みや春休みを利用した親子見学などで一般公開できたらと考えています。多くの方々にどんな環境でどんな風に宇津救命丸が作られているのか、ぜひ肌で感じていただければと思います。

――宇津救命丸は、当初から小児薬だったのでしょうか
いえいえ、宇津救命丸はその名の通り命を救う薬として、昔は家族みんなで飲む万能薬という位置づけでした。当時、一橋家が宇津救命丸をほしがった理由も、子どもを絶やすわけにはいかない状況がありました。当時は救急病院がないので、急に容体が悪化してそのまま子どもが亡くなるということが珍しくありませんでした。けれど、宇津救命丸を飲ませると子どもが息を吹き返し、その間にお医者様が到着して間に合うということがあったと伝え聞いています。当社が宇津救命丸を献上していた歴史に合わせてみると、のちに徳川家の将軍となった人物も飲んでいたのではないかと思われます。

(撮影:上林正典)

――宇津救命丸が子どもの薬になったのは、なぜでしょう
明治時代に入り、誰でも製薬会社を立ち上げられるようになると、宇津救命丸の偽物がどんどんでてきました。そこで他社と差別化を図るため、当時の子どもの健康状態が悪かったことも踏まえ、小児薬として作りかえたのです。子どもの万能薬として、風邪、栄養補給薬として販売し始めました。それが、夜泣き・かんむし専用になったのは、1970年~1980年の頃。万能薬では消費者の気持ちにささりにくいと方針を転換したのです。その時代の背景としては、第二次ベビーブームに加えて、核家族が増えて団地住まいが多くなっていたということあります。そんな中、夜中に子どもが一人泣くと、他の子どもも連鎖して泣き、夜泣きが近所迷惑になると感じる風潮が出てきました。そこで、夜泣き・かんむしの薬があったらいいのではないかということで、この形になりました。現代においても、お父さん・お母さんはたいへん忙しく、子どもの夜泣きが続くと家族みんなが睡眠不足となり、夫婦喧嘩をはじめとした家庭内不和も起こりやすくなります。子どもが夜泣きをするのは悪いことではありませんが、睡眠不足が成長の妨げになることや、長引く夜泣きがADHDとの関係も懸念されているそうです。成長期のお子様にとって不可欠な健やかな眠りを宇津救命丸がお手伝いできたらと思っています。

――夜泣き・かんむしにどう作用するのでしょうか
宇津救命丸には、8つの生薬が入っています。ジャコウ、コオウ、レイヨウカク、ギュウタンの4つの動物性生薬とニンジン、オウレン、カンゾウ、チョウジの4つの植物性生薬からなります。動物性生薬は気持ちのアップダウンを正常化し、植物性生薬はお腹の調子を整えます。人はお腹の調子が悪いとイライラしてしまうもの。ひとつひとつの作用や相乗作用によって、身体全体を整えながら、自律神経のバランスを整えるとされています。

――最近のお母さんは薬に敏感な傾向がみられます
確かに、最近のお母さん達は薬に対して敏感で、お子様に飲ませることに躊躇することも多くみられます。ただそれは、西洋薬への恐怖症ではないかと思うのです。西洋薬は、シャープに効くため、副作用もシャープに表れることがあります。生薬はおだやかに効くため、副作用も基本的にはでにくい。特に宇津救命丸は8つの生薬の複合薬で一つの生薬だけが多く含まれているわけではないので、これまで副作用の報告はありません。宇津救命丸は生薬を生のまま仕入れて、自社工場で粉砕し、高根沢産のもち米で丸めて、本物の金と銀でコーティングしています。自然界にあるものだけで作っているので、お子様はもちろん、大人まで広く飲むことができます。

(撮影:上林正典)

今後も、セルフメディケーションの普及に貢献していく

――近年の医療の無料化が御社にもたらす影響について
各地域で小児の医療の無料化が広がっている今、昔のように子どものために風邪薬を買おうというニーズが減っています。一方、最近は共働きの家庭が増え、病院に子どもを連れて行く時間がなかったり、病院に行くことでインフルエンザや風邪など流行り病にかかったりすることを心配し、診察を受けさせない人もいるようです。そういったご家庭では、自宅に常備薬を置き、病気の初期段階には市販薬で対処していただければと思っています。ご存知の通り、日本では医療費の増加が問題になっています。病院に行くのに一般の方は薬をもらいに行くという感覚ですが、実際には購入し、税金も使われています。そういった意識をもっていただくことが医療費の削減につながるのではないかと思います。そのためにはセルフメディケーションにもっと力を入れていただくことが大切。小児における薬育では、まだまだそこまで出来ていないというのが現状。当社でも、栃木県教育委員会で実施している「とちぎ子どもの未来創造大学」で子どもを対象とした薬育講座を開き、薬の使い方や歴史などを理解していただく機会を増やしています。今後も、セルフメディケーションの普及にお役に立ちたいと活動しています。

――小児薬以外の製品にも力を入れているとお聞きしました
小児薬の市場は、もっとも大きかった頃と比べると5分の1ほど縮小しているといわれています。それを踏まえ、当社でも日本国内のマーケットだけに頼らず、インターネットを通じて中国からの購入もありますし、ベトナムやタイでも販売を展開しています。海外では、日本製の小児薬は安全性が高く評価されていて信頼があり、広く支持されています。宇津救命丸は小児薬ということで小さな子どもだけでなく15歳未満の子どもも対象となっていることから、2014年より子どもの緊張緩和をテーマにした新パッケージを展開しました。受験シーズンや環境の変化によってイライラした時に、服用してもらうのが狙いです。二日酔い、熱中症など、大人の方々に向けた商品もあります。一方、アジア市場やインバウンドでは桃の葉ローションといったボディケア製品が人気を集めています。日本国内においては、今後市場の縮小がみられるため、生薬だけでなく健康を広い意味で捉えた製品ラインナップを展開しています。ただし、宇津救命丸から大きく離れた製品開発を行うのは、当社の目指す道ではありません。これからも医薬品を本流としながら、エビデンスのある化粧品、健康食品づくりに特化していきます。

家族のヘルスケアと題して、大人向けの商品も展開(撮影:上林正典)

――相次ぐ医薬品メーカーの統合についてどうお考えですか
海外展開をしている100億円規模の大手医薬品メーカーの統合は、多く行われています。ただ、当社のような家庭薬をメインとした家族経営の会社では、あまり影響はでていません。確かに市場環境をみると、最初に統合が始まったのがドラックストアで、その次に医薬品卸業者。20年前は、数百あった医薬品卸業者が今は4社しか残っていない状況です。ドラックストアの統合も進み、今は上位9社でほとんどのシェアを占めています。当社の場合、ブランド自体(宇津救命丸とメイちゃん)の認知度があるのでなんとかやっていけますが、製造のみの会社は、大手医薬品メーカーと一緒にやっていく流れになるのかもしれません。ただ当社も、けっして順調だったわけではなく、これまで30年サイクルで時代に合わせて経営方針を転換してきました。江戸時代の頃はお上とうまくつきあっていけば事業を存続できましたが、資本主義が入ってきた明治以降からは、やり方を変えなければ生き残ることができませんでした。当社も多角経営にのりだし、学校を作ったり、鉄道を引こうとしたりしましたが、なかなかうまくいかないことも。そんななか、現社長が甘くておいしいイチゴ味の風邪薬を発売し、子ども達がお薬を飲むことが楽しくなる改革を行ったことも、大きな転換期となりました。

(撮影:上林正典)

良いものは、次の世代にもしっかりと伝えていく

――御社の理念について教えてください
実は、これまで特に理念といったものはなく、実直に目の前のことに取り組んできました。ただ、創始者がかつて宇津救命丸というかなり高価なものを無料で配り始めたことを考えると、「家族の心身の健康に貢献する」というのが、これからの当社の理念になると考えています。子どもが健康なことで、父、母、家族みんなが健やかに過ごせるようにという思いを込めています。社員にとっても、子ども向けの製品を作っていることは、たいへん幸せなことであり、働く喜びにつながっています。現在、少子化の問題もあり、優秀な人材を採用するのが難しくなっていますが、ものづくりを通した社会貢献は当社で働く大きな魅力だと伝えていけたらと思っています。また、イベントやお祭りを通して地域の方々とふれあえるのも、当社ならでは。江戸時代から続いていたお祭りを50年ぶりに復活させ、今では2年に1回実施しています。お祭りでは「50年前、子どもの頃に来たよ」とお孫さんを連れてきてくださる方もいらっしゃいます。そんなお話を聞いていると、喜びとともに老舗ならではの責任を感じます。

――今後の事業展開についてお聞かせください
大きなマーケットである中国において、来年を目標に正式な販売許可をとり、輸出できる環境づくりを進めています。中国では今、小児薬が足りない状況のため、その点も貢献できたらと思っています。日本国内においては、一般用医薬品における小児薬市場は縮小傾向ですが、宇津救命丸はまだまだ可能性を信じ、新しい顧客の開拓に励んでいきたいと考えています。会社の理念に「家族」を加えたのは、子どもだけではなく家族みんなで使えるようなヘルスケア製品を拡充していきたいとの思いから。東南アジアにおいて、日本の製品は今後一層伸びていくことでしょう。

(撮影:上林正典)

――最後に、次世代に伝えていきたい価値について教えてください
家庭薬が衰退した原因は、核家族化に他なりません。昔は一つの薬をみんなで使い、良いものが受け継がれる文化がありました。今はそれが断絶化し、一人ひとりが違う薬を使うのが当たり前となり、受け継がれにくくなっています。昔からのものであっても、現代で通用するものはあります。良いものは次の世代にもしっかりと伝えていくのが我々の役目です。例えば、桃の葉も江戸時代から煮だしたものが治療に使われていた歴史があります。それをローションとして現代でも使っていただいている。このように昔ながらのものでも新しい価値を打ち出すことができます。これからも、古くからのものを見直し、次の時代につなげていくことが必要だと考えています。また、企業にとって一番大事なものは「人」。自分の息子にも、人とのつながりを一番大事にしてもらいたいと思っています。周りの人に親切で、伝統や文化をしっかり守っていく、それが初代の行いにもつながるはずです。現社長もけっして人づきあいが多いタイプではありませんが、みんなに見えないところでいつも努力している人です。今回のお祭りの準備も、週末に帰って母と二人だけで庭の草抜きをしたり、広間を掃除したりと、そこにはおもてなしの心があふれています。反対に、私は人との交流は広いが、おもてなしの心はまだまだ未熟なため、これからも父を見習い、学び続けていきたいと思っています。

(撮影:上林正典)

取材・執筆:金平亜子/ライター
短大卒業後、コピーライターとして2つの広告制作会社勤務を経て、フリーランスとして独立。2004年より広告制作会社をスタートし、現在はカメラマン・ライターからなる取材チームをとりまとめながら、さまざまな広告、記事などを手掛ける

撮影:上林正典/フォトグラファー

取材・構成:王麗華/一般社団法 次世代価値コンソーシアム代表理事

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