本業でシェア9割という堅実な経営を続け、そこで得た利益を宇宙への夢の実現に振り向けて小型ロケットや人工衛星まで打ち上げる植松電機。第1回では、モデルロケット教室の様子を取材した。第2回はモデルロケット教室の冒頭で行われた植松社長の講演の概要を紹介する。
Part 2 講演概要 思うは招く~夢があれば何でもできる
ぼくは小・中学生のとき、ものすごく成績が悪かった。学校の勉強がぜんぜんできません。そんなぼくが飛行機やロケットの仕事をしたいといったとき、母さんは『無理だ』とも『がんばれ』とも言わなかった。代わりに『思うは招く』という言葉を教えてくれました。
気が付いたら、ぼくはこの言葉のおかげで、いろいろなことができるようになった気がします。だからぼくは、この言葉が大好きです。
『思うは招く』とともに、ぼくは『夢があれば何でもできる』と思っています。夢があったら何でもできます。だからみんなには夢をたくさん持ってほしい。夢を一つにしぼったらもったいない。夢は、たくさんあっていい。
いろいろなことが、大好きです
ぼくは1966年の8月17日に生まれました。ぼくは、いろいろなことが大好きです。
高校を卒業したあと、あるマンガに夢中になりました。それでクルマやバイクが大好きになりました。バイクをさんざん改造して、峠とかで走り回った。その結果、電柱にぶつかって、ガケから落ちたりしました。
今、ぼくは51歳ですが、まだバイクが大好きです。51歳で峠を走ったら、かなり危ない。だから今は「プレイステーション3」でお世話になっています。
ぼくはすっかり夢中になり、普通のコントローラでは満足できなくなって自分で作ってしまいました。おかげで家でも、真剣に練習ができるようになりました。
他にも、ぼくには好きなことがあります。ぼくは小さいころからアニメの影響をうけてきました。『未来少年コナン』(NHK。宮崎駿の初監督作品といわれている)というお話から、社会のこと、仕事のこと、仲間のことを学んだ気がします。『銀河鉄道999』からは、命のことや自由のことを学んだ気がします。だから今もアニメが好きです。
そんなぼくですが、北海道の真ん中にある赤平という街で暮らしています。この街は昔、石炭を掘っていたのです。そのとき人口が6万人もいたんですが、1万1千人まで減ってしまいました。炭鉱もなくなり、今も毎年300人もの人がいなくなります。なぜなら仕事がないからです。
それを赤平の人たちは『不景気だからしょうがないよ』という。でも仕事がなかったら、つくることができます。だからぼくは、この街で会社を経営しています。
今から18年前、ここは何もない原っぱでした。そこに会社と小さな工場を作り、仲間が増え、いろいろなことができるようになりました。気が付いたら、株式会社の社長になっていました。
今は社長のぼくも、小学校の通知表にはいつも『集団行動ができない』『落着きが足りない』『忘れ物が多い』『服がいつも違う』などと書かれていました。
そんなぼくについたあだなが「チョロ松くん」。ぼくはいつも落ち着きが足りません。でも落ち着きの足りないチョロ松くんが、今ではロケットがつくれるようになったのです。
ロケットは、売っていません。だからいくらお金があっても、買うことはできない。アラブの富豪でも買えない。でも自分でつくるのは『あり』なんです。それをぼくらは年に何度か、打ち上げています。
奇跡を起こすキーワード
ぼくたちは、この会社で、仲良くロケットを作っています。会社の仲間の他にも、いろいろな人が関わっていて、みんな仲良しです。なぜ、こうしていろいろな人と仲良くなれたのか。それはぼくたちが他の人がやらないことをやったからです。そう、みんなと違うことは、決して悪いことじゃない。逆に『違うはステキ』だったんです。
みんなも『違うのはステキ』と思ってください。そうしたら、みんなの周りから奇跡が起こります。誰でも、奇跡を起こせる。だから『違うはダメ』じゃない。『違うはステキ』と思ってください。
ぼくは社長をしていますが、社長になるのはとても簡単。それは『イヤなことを我慢しないこと』です。イヤなことに出合ったときに我慢したり諦めたり無視したり、愚痴をいったり、『嫌だなぁ』と言っているだけでは何も変わりません。
『何でイヤだと思うのか』そこを考える。なぜならイヤな思いをしているのは、つらい目にあっているのは一人じゃないからです。同じ目に遭っている人、つらい目に遭っている人が山ほどいる。だから自分を助ける方法を考えたら、大勢を助ける発明になるかもしれません。
怖い心とやさしい心が、同居している
ぼくの心の中にも、みんなの心の中にも、必ず、怖い心とやさしい心が入っています。何かあるたびに、それが話し合う。それが考えることです。でも話し合うには『言葉』が必要。もしも、『怖い心』と『やさしい心』と、『自分』の三人が『うぜ~』『いみなくね~』ってなったら、どうするんでしょうか。
何か悩みごとを抱えて『ああもう、むちゃくちゃしてて、わかんない』というとき、それは心を表す言葉が足りないだけです。だったら、言葉を増やせばいい。
美しい言葉は本を読んだら出てきます。だから絵本でも、マンガでも、何でもいいから、本を読むこと。それが心を豊かにして誰かを助けることになるので、ぜひ、考えてほしい。
ぼくたちは、みんなで力を合わせて、ロケットが作れるようになりました。今ではいろいろな実験や研究にも使ってもらえるようになりました。
でも、始めたころはひどかった。なんとか作ったロケットエンジン、試しに動かしてみたら爆発しかしません。27回も爆発しました。もちろん爆発させたかったわけではない。爆発してほしくないと思って挑むのですが、いつも爆発しました。
何でこんなに爆発するのか。それは生まれて初めてロケットのエンジンを作ってしまったからです。実は、やったことがないことをやると失敗する。これはおそらく、当たり前のことです。誰もが知っています。
人間は、もともと最初は「やったことがないこととしか出合わない」のです。なぜならば人間はみな、一回しか生きることができないから。ということは、人間ならば、必ず失敗するということです。
失敗を、進歩に向かうデータにする
みんなはこれから、いっぱい失敗します。ぼくも負けずに一杯、失敗します。なぜなら、それは失敗のためじゃないから。ぼくは飛行機やロケットが大好きなので、歴史を調べました。最初の頃、飛行機は大変でした。飛ばないで落ちるだけです。みんな真面目にやっているけれど失敗しました。ロケットの時代がやってきました。ロケットも失敗をしまくりました。そのおかげで、スペースシャトルが生まれてきたんです。
ということで「失敗はデータ」なんです。乗り越えたら力になる。だからみんな失敗は乗り越えたらいい。失敗を乗り越えるために、まず大事なのは『失敗したらどうすんの!』という言葉に負けないことです。これ何の意味もない言葉。こんな言葉を使うと不安になるだけです。なぜかというと、将来のことや未来のことについて『どうすんの~』と質問しても、誰も答えてくれない。だから不安になる。だったら自分で考える。失敗したらどうするかを考えて準備をすればいい。
たとえば旅行にいくときに『雨が降ったらどうしよう~』と思っていると心配するばかりですが、『雨が降ったら傘がいいかな、レインコートがいいかな』『長靴がいいかな、サンダルがいいかな。いっそのこと水着もありかもしれないな』と、いろいろなことが考えられる。いやな未来をみつめて、それでも大丈夫なように準備すれば、不安は消えて、安心になるんです。勇気を出して嫌な未来を見つめてほしいと思います。
そうはいっても『失敗はしたくない』という人もたくさんいると思います。でも失敗をしておかないと大変なことになります。失敗をしないのは、めちゃくちゃ簡単。
まずは『何もしなければいい』んです。そしたら失敗はしないけれど何もできなくなります。次に簡単なのが、今できることを繰り返していること。これも失敗はしないです。でも成長ができなくなります。
最後の切り札は『誰かのいうとおりにやる』こと。すると誰かのせいにできます。でもそのときには『考える力』を失います。
言ってはいけない二つの言葉
実は、失敗を避けると何もできなくなるし、成長しなくなる。考えることができなくなります。これではもう、何のために生まれてきたかわかりません。
ですからみんなは失敗を避けないようにしてください。そのためにも、失敗に罰を与えてはいけません。失敗したくてする人はいないんです。失敗は『しちゃうもの』なんです。それに罰を与える必要はありません。
失敗を怒ってはいけません。失敗した人に向かって『何やってんの!』といわれても『みてのとおりです』としか答えようがありません。
また失敗した人に向かって『何でこんなことができないの!』ということを言っても『わかっていたらできるんです』としかいえません。わかってないから、できない。じゃあできるためには、どうすればいいんだろうと考えなければいけません。
『何やってんの!』『何でこんなことができないの!』という言葉は使わないでください。そして一番気を付けてほしいのが、失敗を自分のせいにしてはいけません。真面目な人こそ、自分を責めます。責めても、何にもならないからね。
失敗を成功に変える言葉
『なんでだろう』『だったら、こうしてみたら』ということを紙に書いてみたらいい。この二言で、失敗は階段の一段になる。みんなは間違いなく、強くなります。この言葉は、みんなの気持ちを、やさしくします。だから、この言葉を使ってほしいと思います。
ぼくは、みんながうらやましい。ぼくより、後に生まれているから。ぼくは51年前に生まれてしまいました。小さいころは宅急便もありません。みんなは今、その気になれば、全世界とつながることもできます。
もうじき世界中の国と言葉の壁がなくなります。誰でもしゃべれるようになります。
考えてみてください。人類の歴史が始まって以来、そんなことを経験したことがないんです。みんなこれから、人類の歴史上、初めて言葉の壁がない世界に生きることになる。それは、すばらしい世界だと思います。ちょっと、うらやましいなと思っています。
実は、ぼくは小さいころから片方の眼の視力が、もの凄く悪かったんです。だからボールを使ったスポーツがもの凄くへたくそで、体育の時間がとてもつらかった。ぼくが入ったチームは負ける。いくら練習してもボールを使ったスポーツが上手くならない。
つらかったな。
ぼくは、困ったときには本屋さんに行きました。そこでクラフトの本をみつけたのです。
ぼくが作った紙飛行機を、ためしに体育館で飛ばしてみたら、体育館の端から端まで飛んでいきました。飛ばしたぼくがびっくりしました。周りの人はもっとびっくりしたでしょう。自分にも、できることがあったんです。
ペーパークラフトの計算は、学校のテストには出ません。それで、先生から『クラフトで遊んでないで、ちゃんと算数の勉強もしなさい』と怒られました。だって難しいクラフトの計算はできても、学校の算数のテストでは0点だったからです。
中学生になったら、友達はみな『大人から評価してもらえること』しか、しなくなっていました。みんな、それまで好きだったことを止めて、学校の勉強しかしなくなったのです。
でも中学生のころ、スペースシャトルが飛びました。ガンダムが始まり、スペースコロニーで働く人たちがいました。そして憧れの宇宙に行けるスペースシャトルに、日本人の毛利衛さんが乗りました。憧れのスペースシャトルに日本人が乗る~毛利さんは、北海道の人だった。夢を育んでくれました。
中学では、先生から『将来、どうする?』と聞かれました。ぼくが『飛行機やロケットの仕事をしたい』というと、先生は教えてくれました。
『そのためには、東大に行かなきゃダメだ』と。そして『お前の頭じゃ無理だ』といい、ぼくの成績でいける高校を一つ教えてくれました。『お前、将来はどうする?』と質問しておきながら、用意していた答えは『お前が行ける高校はここしかない』と。なんじゃ、それ。
でも先生だけではなく、たくさんの大人が『お前には無理』というので、ぼくはだんだん、本当にできないんだと思えてきました。
ぼくには、ちょっとだけ気づいたことがありました。ぼくに『ダメだ』ということを言う大人は、実は『それをやったことがない大人』です。飛行機やロケットを作ったことがない大人の意見。やったことがない人に相談すると『できない理由』を教えられます。これはきっと『相談した人』を間違えていたのです。
学問というのは、社会の問題を解決するためにあります。人類が、命をかけて積み重ねたものです。学問は、人を助けるためにあります。みんなが、学校で、それを学んでいるということを忘れないでください。
ただ、残念ながら、学校の教育は、大量生産の時代に、すっかり歪んでしまったのです。気が付いたら、『大人しく』『聞き分けが良く』『都合のいい人』をつくる仕組みになっていました。
その後、作ったら余ってしまう時代になりました。ものを作ったら余ってしまう時代には、どうしたらいいのでしょう。
とても簡単です。壊れやすくすればいいのです。わざと壊れるようにすればいいのです。そして、消費を強制すればいいのです。
安いモノができて、安い人件費、お金がかからない仕組みがあります。それがロボットということで信じられない速度で『無人工場』が増えています。このままでは世の中はロボットだらけになってしまって、みんなの働く場所がなくなってしまうかもしれない。
実は『素直』『真面目』『勤勉』だけでは、人間はロボットに負けてしまう。では、何か必要なんでしょうか。
ぼくは、そこに『興味』と『好奇心』が残ったらいいと思っています。
これから考える力が求められる
これから、考える人が必要になる。ですから、お願いだから、親御さんたちは自分たちの経験を、子どもたちにしゃべらないで。それはおそらく、もう通用しない。これからは、ぜんぜん違います。
では、考える人とは、どんな人でしょうか。よほど、いい大学に行かなければいけないのでしょうか。そんなのは関係ないです。今、世界が探し求めている「考える人」とは、これまでやったことがないことを、やりたがる人です。あきらめない人です。工夫をする人なんです。ぼくも、そういう人と、一緒に仕事がしたいです。
生まれたときから、あきらめ方を知っている人なんて、どこにもいません。みんなは、全員、あきらめ方を知らないで、光り輝いて生まれてきたんです。そんなみんなに、誰かが「あきらめ方」を教えている。でも、それはマズイ。大事なのは、あきらめないこと。
夢をかなえる秘訣があります。自分の夢をどんどんしゃべる。出会う人出会う人にかたっぱしから、しゃべったらいい。そしたら夢がかないます。なぜなら夢は、やったことがある人と仲良くなれば、できるからです。だからみんな、やったことがある人を探し続けるために、夢をしゃべり続けるんです。
でも、夢は語るとばかにされます。出逢うチャンスを失うのは、もったいないです。だからこそ夢は何度バカにされても、悔し涙をぬぐって、知っている人に出会えるまでしゃべり続けることです。
世界は広い。世界のどこかに必ず『知っている』と言ってくれる人がいるから。その人に出会えるまで、目の前の狭い世界にとらわれないで、いっぱい夢をしゃべってください。仲間を探してほしいと思います。
残念ながら、ぼくの生まれた北海道の街では、飛行機やロケットを作った人はいませんでした。でも出逢える。そのために本があるんです。
ライト兄弟は東大には行っていませんでした。ということは東大に行かなくても、飛行機は作れる。調べてみたら東大生が使っている教科書は、ふつうの本屋さんや図書館で、いくらでも手に入るのです。それを読んじゃだめという決まりは、どこにもありませんでした。だから、会ってないからできないのではなく、まずは本を読めばいい。
フライイングは、どんどんしたほうがいい
何といっても、人生はフライイングしたほうが、先に進む。オギャーといった瞬間に、もうスタートを切っています。先にやったほうが必ず勝つからね。
将来、パティシエになりたいと思ったら高校を卒業するまでがまんして、そこから学校に行く必要はない。今からお菓子を作ればいい。それは必ず力になるから。そしたら、ほんとに勉強したくなったときに、とびぬける人になるから。
だからぼくも、飛行機のことの勉強をしまくりました。その結果、中学と高校では、もの凄く、成績が悪かった。でも大学に行ったら、テスト前に勉強をする必要ない。ほっておいても100点がとれます。
大学の授業の内容は、ぼくが好きだったものだっただから。だから大学を卒業したあと、名古屋で本物の飛行機やロケットをつくることができたのです。この夢をかなえることができたのは、間違いなくテストや成績に関係ないから『くだらない』といって『やめなさい』と言われても、好きなことを止めなかったからです。
学校の成績で、あきらめなくていい
みんなに知っていてほしい。大好きなことが、人生のパワーです。ぼくは本を読むのが大好きでした。だから国語が得意だったはず。実際、ぼくは漢字を読むのは100点でした。ところが、漢字が書けません。書き取りテストをすると0点。そして「国語は、だめだなぁ」と言われ、国語が嫌いになった。
ぼくは、計算が得意です。計算機を使って計算します。でも筆算ができない。だから「算数だめだな」といわれて、算数が嫌いになった。でも今、パソコンで設計やいろいろな計算ができる。ぼくはダメじゃなかった。
みんなも、もしかしたら苦手な勉強があるかもしれない。でも思い出してください。小学校一年のとき入学した日には、全員、教科書が輝いて見えた。知りたかった。学びたかった。でもいつの間にか点数をつけられて比べられて、怒られて、ため息をついて『苦手』と『嫌い』が生まれるのです。
でも本当は、教科書以外の方法で、もっと好きになれることがあるかもしれません。だからこそ図鑑でも小説でも、映画でも、なんでもいい。好きなことを追い続けてください。ぜんぜん、ダメじゃないんです。
誰にも未来はわからない
未来というものは、誰にもわかりません。わからないから、奇跡が起こるかもしれません。今日知り合った人が、自分の奇跡に関わる可能性もあるんです。だからみんな、未来をあきらめる必要はないんです。
それは、みんなにはすごい可能性があるということ。好きってスゴイ。なぜなら好きなことは、頑張れるから。好きなことは覚えちゃうから。それが人間の本当の力です。人間は必ず、テストの成績とは関係がない大人になれるんです。
大人になってから、人生は長い。そのときものをいうのは、好きなことをやっていたか、どうか。そして好きなことは、みんなの仲間を増やすんです。
『どうせ無理』という言葉だめ
ぼくは『どうせ無理』という言葉を、社会からなくしたいと思っています。だから誰もが『どうせ無理』と思っている人にも、宇宙の仕事ができるよということを示そうと思い、2004年から、宇宙の仕事を始めたんです。
そして、いろいろな人にロケットを作ってもらいたいと、いろいろな人に会いました。一生懸命、がんばりました。その結果、去年だけで1万5千人もの人が修学旅行で来てくれるようになりました。北海道の町の工場に、わざわざ来てくれるようになりました。
みんなには、覚えておいてほしいことがある。たとえば、お医者さんになりたいと思った人がいるとします。素晴らしいことです。がんばってほしい。でも誰かにしゃべったら『よっぽど頭よくないと無理だ』と、あきらめさせられるかもしれない。
そんなとき、思い出してほしい。ぼくの言ったことを。
医者になりたいのは、なぜだろう。その理由が『人の命を助けたい』だとしたら、どうかな。お医者さんが使っている道具は、お医者さんが作っているんじゃない。でも人の命をたくさん助けている。ドクターヘリも人の命を助けている。お医者さんになりたいと思ったら、道は一本しかないけれど、人の命を救いたいと思ったら、道が無限にある。
ということは、あきらめなくていいということ。だからみんな、何かになりたいと思ったら、「なぜなんだろう」と考えてください。
夢がみつからないとき
もしかしたら『私には夢がありません』と悩んでいる人がいるかもしれない。これは、大人が悪いんです。
夢を進学や仕事に限定してはいけません。そんなことをすると夢がわからなくなってしまう。だって違うんです。夢と仕事は、分けて考えたほうがスッキリします。
夢というのは、大好きなことをやってみたいんです。どんなことでもいい。大きいも小さいも関係ないです。たとえば『今日はカレーが食べたいね』でも、立派な夢。かなえればいいんです。
たとえば自分の大好きな人が『今日も怪我をしませんように』と願うこと、これも大事な夢なんです。夢というのは何でもいい。
しかし『仕事』というのは人の役に立つこと。これも、どんなことでもいい。お金にならなくてもかまいません。だからお父さん、お母さん、仕事というのはお金をもらうことだよと教えてはダメです。それは、正しくないです。
なぜならお金をもらうことが『目的』になってしまえば、たとえば『振り込め詐欺』でも、できちゃうから。お金をもらうことが目的ではなく、人の役に立つことが仕事だということを、みんな、忘れないでください。
夢は、たくさんあったほうがいい
ぼくには、たくさんの『好き』があり、こうしたいという『夢』がありました。それは『できるわけない』と言われながら、気が付いたらいろいろな夢がたくさん集まって、ぼくの力になっていたんです。
ぼくの会社になっていたんです。だから夢は一つじゃない。夢はたくさんあったほうがいい。そして夢がたくさんあると、一個くらいうまくいかなくても大丈夫です。
ぼくは、こうみえても小さいころからピアノとバイオリンを習っていました。音楽が大好きで、いっぱいレッスンを受けました。でも中学生のとき、家の仕事をやっていて左手を機械に巻き込まれてしまいました。ぼくはそのとき左手の一部を失ってしまいました。
それでバイオリンの絃を押さえられなくなりました。ピアノの鍵盤を弾けなくなりました。もし、ぼくがそのとき『一生懸命やりなさい』といわれてピアノとバイオリンしかやっていなかったら、がっかりしておかしくなっていたと思います。
キャプション「ラッキーなことに今も音楽が大好き。楽器を作るのが大好きです」
人生は、何があるかわかりません。だから夢はたくさんあったほうがいい。夢がたくさんあると『中途半端』と言われます。ぼくも言われました。でも、それでいい。中途半端は何もしないでいるよりも、ずっといいからです。ちょっとできているだけで、ましです。
ですからみなさんは誰かと比べる必要はありません。比べるなら昨日の自分と比べてください。ちょっとずつでもやり続ければ変わります。ゆっくりでいいからね。途中で休んでもいいから、やりつづけたら、いいことがあると思います。ぜひ、続けて下さい
自信は、未来を変える
生きていく上で、どうしても自信というものが必要。これはすごく大事なことです。でも日本では、自信のことを『うぬぼれ』という。これは、すごく恐ろしいことです。
自己評価、自分が自分をどう思うか。それが『ダメだ』といわれたらどうなるかというと、人は、人からどうみられるか、気になってしまう。それでは何もできなくなってしまう。とても悲しいことです。ですから自信を『うぬぼれ』と言わないでほしい。
自信は、お金では買えません。いくらお金があっても、人を見下しても、自信は手に入りません。それで手に入るのは、ただの『優越感』です。決して自信じゃないからね。
そして今、勝負を避けても、自信まかなうことはできません。やったことがないことを、やったほうが、自信は増えるんです。
誰かの夢を聴いたとき、わざわざつぶす必要はない。『だったら本屋に、こんな本があったよ』とか『テレビで、こんなことやってたよ』とか言ってあげられたら、元気100倍じゃないですか。
誰も人の夢を否定しなくなったら、みんな安心して生活できます。そしたら、みんなもっと仲良くなれます。そしたら力を合わすことができるから、これまでかなわなかった夢もかなっていくんです。ぜひ「だったら、こうしてみれば」を使ってみてください。
さあ、これからモデルロケットを作ります。新しいことにチャレンジするのだから、失敗は当たり前。きっと今日の出来事は、みんなの小さな自信につながります。自信は、みんなの未来を変え、夢をかなえてくれるでしょう。
Part 3 植松電機の価値創造~「想像力と発想力」で未来を拓くへ続く
取材・執筆:廣川州伸(ひろかわ くにのぶ)/ライター
1955年9月東京生れ。都立大学人文学部教育学科卒業後、マーケティングリサーチ・広告制作会社を経て経営コンサルタントとして独立。合資会社コンセプトデザイン研究所を設立し、新事業プランニング活動を推進。東工大大学院、独協大学、東北芸術工科大学などの非常勤講師を務め、現在、一般財団法人 WNI気象文化創造センター理事。主な著書に『週末作家入門』(講談社現代新書)『象を倒すアリ』(講談社)『世界のビジネス理論』(実業之日本社)『偏差値より挨拶を』(東京書籍)『絵でわかる孫子の兵法』(日本能率協会)など20冊以上。地域活性化についても様々な提案を行っている。
撮影:伊藤 也寸志(いとう やすし)/フォトグラファー(有限会社マーヴェリック所属)
編集:王麗華/次世代価値コンソーシアム
企画・取材:石原智/次世代価値コンソ―シアム『NVC REPORT』編集部
2018年9月掲載